会社や個人事業主が事業を進めていく上で必須になるのが経理業務です。
ただ、経理はメイン事業とは違い、新たな売り上げを見込める仕事ではありません。できれば主力メンバーはメイン事業に専念して、経理は誰かに任せたいと考えている経営者やフリーランスの方も多いのではないでしょうか?
この記事では、経理のアウトソーシングで具体的にどのような業務を依頼できるのかをご紹介して、メリット・デメリットや成功事例・失敗事例を解説していきます。経理をアウトソーシングしたいと考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
経理のアウトソーシングとは
今回のテーマとなる経理のアウトソーシングとは、経理業務を自社で行うのではなく外部の業者に委託することです。
経理業務は月次・期次・年次などのサイクルで行う定型作業ですが、慣れている人が担当しても一定の工数がかかります。
スタートアップなど事業規模が小さい段階では、経営者が自ら経理を行っているケースも少なくありません。しかし、さらなる事業拡大を視野に入れるとアウトソーシングした方がメリットが大きくなってくる可能性があるのです。
この経理アウトソーシングは、ITによる自動化技術が発達するにつれて市場規模も大きくなっており、将来性が見込める領域と言えるでしょう。
それでは具体的にどのような業務が依頼できるのでしょうか?
経理業務のアウトソーシングで依頼できること
経理業務のアウトソーシングで依頼できるのは、主に決められたルールに沿った定型作業です。
基本的な流れとしては、依頼元から依頼先へ元情報(データや領収書など)を提供し、依頼先で処理を行います。依頼元は大企業や中小企業、個人事業主などさまざまです。
以降で具体的なアウトソーシングの例について解説していきます。
経理で給与計算のアウトソーシング
企業の従業員数が多くなってくると、毎月の給与計算や給与明細の作成・振り込みも大きな負担となります。
また、給与は社員ごとの手当や税制の変化にも対応する必要があり、自社内ですべて対応するのは相応の負荷がかかります。
このようなケースで給与計算をアウトソーシングすれば、依頼先へ勤怠データや従業員情報を提出するだけで済むのです。
依頼元としては最終的なチェックをして振り込み処理をするだけですので、導入前よりも大幅に工数を削減することができます。
法人向け経理のアウトソーシング
法人向け経理のアウトソーシングとしては、上記の給与計算に加えて振込・納税代行、年末調整代行、住民税更新代行などがあります。
振込・納税代行とは、給与の振り込みや納税を外部へ委託するものです。従業員数が増えてきたときに、事務作業の負荷軽減や単純ミスの防止につながります。
年末調整代行とは、毎年11月頃に行う年末調整作業で必要になる各種控除や税金の計算を外部へ委託するものです。アウトソーシングすることで計算ミスやマイナンバーなどの情報漏洩を防ぐことができます。
住民税更新代行とは、5月中旬〜6月にかけて発生する住民税の更新作業を外部へ委託するものです。
住民税の更新は、従業員が住んでいる自治体によって送られてくる書類の様式が異なり作業負荷が大きいため、アウトソーシングすることでその他の業務へ注力することができます。
経理アウトソーシングの個人での利用
経理アウトソーシングは法人だけではなく、個人での利用も増えてきています。
フリーランスや個人事業主は自分で確定申告をする必要がありますが、アウトソーシングを利用することで負担を最小限に抑えることができるためです。
経費精算についてもレシートや領収書を取っておいても、1つずつ記帳していく手間がかかります。
アウトソーシングのサービスとしては、クラウドを使った会計ソフト「freee」が有名ですが、手入力の作業は残ってしまいます。
このことから、最近ではfreeeへの入力から代行してほしいという要望も増えてきているのです。
freeeでの経理をアウトソーシングしたい
クラウド会計ソフトのfreeeは、インストール型の会計ソフトと比べて全般的に利便性が高くなっています。ただ、手入力や手作業をしなければならない部分もあり、アウトソーシングをしたいという声も挙がっています。
経理アウトソーシングを請け負っている会社の中には、freeeへの記帳代行から依頼できるサービスもあります。このサービスを使えば、依頼者としては記帳のもとになるデータや領収書を渡すだけで作業が完了します。
freeeへの代行入力作業を依頼することにメリットがあると考える人が増えているのです。
経理アウトソーシングは上場企業も活用できるか
経理アウトソーシングは上場企業でも活用している例はあります。
ただし、上場企業に求められる会計基準は、非上場企業や個人事業主と比べるとはるかに複雑になります。よって、アウトソーシングを請け負っている会社によっては対応できないこともあります。
また、上場企業の場合、経理をアウトソーシングするか否かは経営者の考え方にも依存します。それは自社の経理財務部門をどのように位置付けるか、という点です。ある会社では、自社の社員には単純作業ではなく、常に新たな価値を創造してほしいという考えから、経理業務の大半をアウトソーシングしています。
上場企業ともなればグループ会社を含めた連結決算など、経理業務も複雑になります。そのような業務をアウトソーシングして成功させるためには、中長期でメリットを最大化する方法を考える必要があるでしょう。
経理アウトソーシングは外資系企業にも対応できるか
外資系企業の経理業務は、母国語(英語など)と日本語のバイリンガルで会計業務を行う必要あり、難易度が非常に高くなっています。
日本に法人を置いている外国企業でも、日本のスタッフが少なく経理担当を専任で配置することが難しいケースも多いため、アウトソーシングの需要は伸びている状態です。
外資系企業の経理アウトソーシングを請け負っている会社は一定数存在するため、自社内で教育するよりも低コストで業務を進められる可能性があります。
外資系企業の経理担当に求められるのは、双方の会計基準に関する知識とバイリンガルによるコミュニケーション力です。適任者がいれば自社内でアサインするに越したことはありませんが、アウトソーシングも有力な選択肢となるでしょう。
シンガポールで経理のアウトソーシングができるか
外資系企業のケースとは反対に、日本に本社がある企業のシンガポール支社であれば経理業務をアウトソーシングしたいところです。
実際にシンガポールにある会計代行会社では、日本企業の経理アウトソーシングを請け負っているケースもあります。
このような経理代行サービスでは、日本語で本社への報告を行ってくれることも多く、現地の社員にはメイン事業に集中してもらうことができます。自社のメンバーを経理担当としてシンガポールに派遣する、または教育するコストを考えれば、アウトソーシングは有益な手段です。
経理アウトソーシングのメリット・デメリット
経理アウトソーシングについて、いくつか具体例をご紹介してきましたが、ここからはアウトソーシングすることによるメリットとデメリットを解説していきます。
単純に自社の作業量が減るというメリットだけではなく、デメリットやリスクも理解した上で導入を検討する必要があります。
経理アウトソーシングのメリット
経理アウトソーシングのメリットは以下の3点です。
・経理業務にかかるコストを削減できる
・専門組織に委託することでミスの削減につながる
・アウトソーシングによりメイン事業へ注力することができる
まずはコストが削減できることです。経理業務は一定の間隔で必ず作業が発生するため、慣れているメンバーでも相応の人件費がかかります。
また、アウトソーシングであれば正社員を雇うわけではないため、社会保険などの費用もかかりません。これらを踏まえたコスト削減が大きなメリットです。
次は経理を専門に扱っている会社へ委託することでミスを減らせることです。自社内の経理部門でも精緻な作業をすることは可能ですが、アウトソーシングによって第三者的な立場で作業してもらえることがメリットとして活きるのです。
最後はアウトソーシングにより自社のメンバーがメイン事業へ専念できることです。もともと経理を担当していたメンバーは、経理業務の結果をチェックする必要がありますが作業自体はアウトソーシングでも可能になっています。
経理アウトソーシングのデメリット
経理アウトソーシングのデメリットは以下の3点です。
・事前に外注するための準備が必要になる
・情報漏洩のリスクがある
・自社内に経理ノウハウが蓄積されない
まず経理アウトソーシングにあたり、従来は自社内で行っていた経理業務をマニュアル化して外注先へ引き継ぐ必要があることです。
外注業者は基本的にマニュアル通りにしか作業してくれませんので、自社内のルールがあれば漏れなく記載しておかなければなりません。
次は外注することにより情報漏洩のリスクがあることです。この対策は信頼できる外注業者に委託するしか対策はありません。
ただ、外部に経理データが渡ることで少なからず情報が漏れるリスクがあることは認識しておく必要があります。
最後は経理業務を外注することで、自社内に経理のノウハウが蓄積されないことです。経理業務は、事業を進めていく過程や税制改正などによって手順が見直される可能性があります。
そのようなケースで外注先しか詳細を知らない状態ができてしまうのです。
経理アウトソーシングの事例・失敗例
ここからは実際に経理アウトソーシングを導入した会社の成功事例と、よくある失敗例をご紹介します。
成功事例では、導入するにあたっての社内での検討内容や、導入から運用した結果までのリアルなレポートをまとめています。
よくある失敗例では、経理アウトソーシングを試みた企業が陥りやすい傾向をまとめ、今後導入を考えている企業の役に立つよう解説しています。
経理アウトソーシングの事例
成功事例としてご紹介するのは、宮城県に本社を置いて住宅・リフォーム関連の事業を行っている株式会社北州です。
この北州ではNTTビジネスアソシエ東日本に経理アウトソーシングを委託して、導入後も安定した運用を続けています。
導入前は経理ノウハウの属人化が大きな課題として挙がっており、担当者が変わっても業務に支障をきたさない体制が望まれていました。
また、拠点ごとに独自の手順が確立されており、内部統制に関する懸念の声もありました。
そして、経理担当者を定型作業だけではなく、創造的な業務へシフトさせたいという想いから、アウトソーシングの導入に踏み切ったのです。
アウトソーシングの実施にあたっては、自社の経理データを外部へ渡すことに抵抗感がある社員もいました。
ただ、業務を委託してからは、北州からの要求に対してすべて丁寧に対応してくれることで、大切なデータの預け先として安心感や信頼感が増したのです。
このような適切なコミュニケーションにより導入はスムーズに進み、北州の事例ではわずか2ヶ月ほどでアウトソーシング体制が完成しています。
導入後の効果として、管理職クラスでは拠点ごとの月次レポートを受けることで、課題となっていた内部統制の改善につながっています。
また、アウトソーシングによる二次的なメリットとして、経理を担当していた社員が仕事に厳しくなったとの声も挙がっています。これは外部へ一部を委託することで、自分が行っている業務に対するモチベーションが上がっているものと考えられます。
北州のメンバーは、経理アウトソーシングを導入することで、本来自分たちが注力すべき業務があることの気づきを得ています。これをきっかけに更なる事業拡大へつながることでしょう。
経理アウトソーシングの失敗例
上記でご紹介した株式会社北州は経理アウトソーシングを上手く活用できた好例ですが、理想通りにプロジェクトが進まず失敗してしまうこともあります。
失敗する原因としては依頼元の準備不足が大半で、外注先へいわゆる丸投げをしてしまうケースです。マニュアル作りや引き継ぎは労力を要しますが、移行後に安定した運用するには欠かせないタスクなのです。
次に多い失敗が委託先の選定を誤ってしまうことです。不当な金額を請求されてしまうような悪徳業者は論外ですが、自社がアウトソーシングをする上での目的に合致しない委託先も避けるべきです。
委託先を選定する上では、現段階の業務内容のうちどの部分をアウトソーシングして、その分の時間を何に使うのかを明確にしておく必要があります。
また、委託先とも目的を共有することで、あくまでも自社が主体となって委託先をコントロールしなければ、アウトソーシングで成功は得られないのです。
まとめ
経理アウトソーシングについて、実際に依頼できる業務や事例などを紹介してきました。
導入を検討するにあたっては、本記事で解説した通り、アウトソーシングすることによって得られるものと、導入することによって増えるコストを比較して考える必要があります。
また、アウトソーシングの導入を検討するプロセスの中で、自社の経理業務を見直すきっかけにもなりますので、一度試みてみることをおすすめします。
最終的には経営者や個人事業主本人の判断となりますが、切り出せる業務は専門家へ任せて、本来やるべき事業の推進を図ってみてはいかがでしょうか。